知らない街を 歩いてみたい,どこか遠くへ 行きたい。愛する人と めぐり逢いたい,どこか遠くへ 行きたい…。
インターネットを利用して音声を伝える音声通話技術は,昨年2億7900万ドルの売り上げを記録したが,5年後には100億ドルを超えるまでに膨れ上がると見られている。「最終的に,電話はすべてどこかの段階でインターネット・プロトコルを通ることになるだろう」という意見もある。プロバイダーも音声サービスを提供し始めており,その場合通常の遠距離通話よりも安くなっている。
インターネットで最初の驚きは,距離感の喪失だった。電話であれば,近い距離なら値段は安いが,遠くになれば遠くになるほど高くなる。郵便だって,国内ならおんなじ料金だが,海外だと値段が上がる。電車の運賃だって,航空料金だって,すべて一緒。近くは安くて遠くは高い。だが,そんな「常識」が皆無のワイヤードと巡り合って,我々は戸惑っていた日もあった。
「遠くへ行きたい」という望郷に似た言葉に,ノスタルジーを感じることもなくなった。そして,生まれた地に縛られてどこにも行くことができないという不遇がなくなって,その気になればどこへでも行ける,地球の裏にだって,月の上にだっていける,という世界が目の前に広がっている。電話とて同じ。IPに乗ることで,距離が喪失して,どんな遠くにいる友人とも毎日,隣にいることができる。「遠くに行きたい」と,もう嘆く必要なんか,ないんだ,この世界では。
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